法人化と社会保険
事業が育ってくると、法人化を考える場面が来ます。そのとき見落とせないのが社会保険です。
法人になると、社長が一人でも社会保険への加入が義務になります。負担が増える一方、会社員時代のような扶養の仕組みが戻る面もあります。
この記事では、法人化と社会保険を、加入義務・保険料の負担・国保との違いの順に整理します。
01法人は社会保険が強制適用
まず、原則を押さえます。
株式会社や合同会社などの法人は、社長が一人だけであっても、健康保険と厚生年金保険の強制適用事業所になります。「従業員がいないから入らない」という選択はできません。
個人事業主のときは任意だった(常時5人以上の従業員がいる一定業種を除く)のに対し、法人化すると義務になります。
02保険料は労使折半、ただし一人社長は実質全額
負担の実態です。
社会保険料は、会社と本人で折半して負担します。会社員なら会社が半分払ってくれる形です。
ですが、一人社長の場合、会社も自分のものです。つまり、会社負担分も実質的には自分が払うことになります。「折半だから半分」とは考えられない点に注意が必要です。
03保険料は役員報酬で決まる
ここが個人事業主との大きな違いです。
社会保険料は、事業の利益ではなく役員報酬(標準報酬月額)をもとに計算されます。所得に連動する国保・国民年金とは、決まり方が違います。
そのため、役員報酬を低めに設定すれば社会保険料は下がります。ただし、報酬を下げれば将来の厚生年金も減り、会社に利益が残れば法人税がかかります。全体のバランスで考える必要があります。
04扶養の仕組みが使える
負担増の一方で、大きな利点があります。
健康保険には扶養の制度があるため、配偶者や子どもを被扶養者にすれば、その人数分の保険料はかかりません。
国民健康保険には扶養がなく、家族の人数分だけ均等割が加算されます(個人事業主の国民健康保険の仕組み)。そのため、家族が多い人ほど、法人化して社会保険に入ったほうが有利になりやすいという傾向があります。
さらに、配偶者を厚生年金の第3号被保険者にできれば、配偶者の国民年金保険料の負担もなくなります。
05受けられる給付が手厚い
もう一つの利点です。
- 将来の年金:基礎年金に加えて厚生年金(報酬比例部分)が上乗せされる
- 傷病手当金:病気やケガで働けないときの所得補償がある
- 出産手当金:産前産後の所得補償がある
国民健康保険には傷病手当金・出産手当金が原則ありません。この差は、働けなくなったときに効いてきます。
06法人化を考えるときの整理
最後に、判断の視点です。
- 家族が多いなら、扶養が使える社会保険が有利になりやすい
- 所得が高いと、国保の保険料は上限(令和8年度は年113万円)に達する。法人の社会保険と比較する
- 国保組合に加入している場合、法人化で継続できないことがある(国民健康保険組合という選択肢)
- 保険だけでなく、税金(所得税と法人税)や事務負担も含めて総合的に判断する
社会保険は法人化の判断材料の一つです。個人事業主のメリット・デメリットは 個人事業主になるメリット・デメリット で整理しています。実際の判断は、税理士に試算してもらうのが確実です。
よくある質問
一人社長でも社会保険に入る必要がありますか?
あります。法人は社長が一人だけでも健康保険と厚生年金の強制適用事業所になります。従業員がいなくても加入義務があり、任意で外れることはできません。
保険料は半分になるのですか?
会社と本人で折半しますが、一人社長の場合は会社も自分のものなので、実質的には全額を自分で負担することになります。「折半だから負担が半分」とは考えられません。
保険料はどうやって決まりますか?
役員報酬(標準報酬月額)をもとに計算されます。事業の利益ではなく報酬額で決まるため、報酬の決め方が保険料に直結します。ただし報酬を下げると将来の厚生年金も減ります。
国民健康保険と比べてどちらが得ですか?
家族が多い場合は、扶養が使える社会保険が有利になりやすいです。国保には扶養がなく人数分の保険料がかかるためです。所得や家族構成によって変わるため、試算して比べましょう。
法人化すると国保組合は続けられますか?
多くの国保組合は法人化していない個人事業主を対象としており、継続できない場合があります。組合によっては条件付きで継続できることもあるため、法人化の前に組合へ確認しましょう。
まとめ
法人化すると、社長が一人でも社会保険への加入が義務になります。保険料は会社と折半ですが、一人社長では実質的に全額を自分で負担します。
一方で、健康保険の扶養が使えるため家族が多いほど有利になりやすく、厚生年金の上乗せや傷病手当金といった給付の手厚さもあります。保険料は役員報酬で決まるため、報酬の決め方が重要です。税金や事務負担も含めて、総合的に判断しましょう。
制度の詳細は日本年金機構などの公式情報を確認し、実際の判断は税理士や社会保険労務士にご相談ください。